大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和50年(ラ)174号 決定

抗告人(債権者) 大橋房次郎

右訴訟代理人弁護士 盛川康

同 横谷瑞穂

相手方(債務者) 日下部初次

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の理由は、抗告人が昭和四七年六月一九日相手方に対し、抗告人所有の別紙物件目録記載の農地(以下本農地という。)を代金は金一、三三八万円とし、その内金一、〇〇〇万円を受領し、残金は同年九月一五日限り支払を受ける約束で売渡す旨約した売買契約において、右期限後再三の催告にもかかわらず相手方が右残金三三八万円を支払わず、また、相手方に格別の財産もないので、その有体動産の仮差押を求めた本件申請に対し、原決定が右被保全権利と保全の必要性を認めるに足りる疎明がないとしてこれを却下したのは不当である、というにある。

二  そこで、記録中の疎明資料に照らしてこれを検討するに、抗告人はその主張のように昭和四七年六月一九日相手方に対し本件農地を代金一、三三八万円で売渡す旨契約し、右契約において同日手附金三三八万円の、同年七月末日に中間金五〇〇万円の各支払を受け、同年九月一五日限りその所有権移転登記手続完了と同時に残金五〇〇万円の支払を受けるものとし、更に本件農地につき農地法による転用に協力するとの約定をしたこと、抗告人は右売買代金のうちさきに金一、〇〇〇万円の支払を受けたが、残金三三八万円の支払を受けていないこと、本件農地については未だ農地法五条の規定による許可もなく、従って、その所有権移転登記も未了であることが認められる。

右事実関係からすると、抗告人は、本件農地につき農地法五条の規定による県知事の許可を条件として所有権移転の譲渡契約を締結したのであるから、右許可を条件として将来発生する売買(残)代金請求権(しかもこれは所有権移転登記と同時履行の関係にある。)を有するものというべく、従って、被保全権利の存在については疎明があるということができる。しかし、更に保全の必要性についてみると、記録中には、相手方が唯一の財産ともいうべき動産を隠匿しようとしている様子がある旨を記載した報告書があるけれども、本件農地の売買契約は前記の許可によって効力を生ずるものであり、その所有権はいまなお売主たる抗告人に帰属し、かつ、その許可があったのちも所有権移転登記は右売買代金残金と引換えに行なうものであって、右代金債権の履行は当然確保されているのであるから、ことさら相手方の有体動産を仮差押して右債権を保全する必要があるとは認められず、他にその必要性を認めしめる特段の事情も窺われない。

そして、右のように被保全権利とその保全の必要性の双方又はそのいずれかに疎明がないときに、なお保証を立てさせて保全命令を発するかどうかは裁判所の自由な意見によるものと解するのを相当というべく、原決定はこの見地において仮差押命令を発するのを相当でないとして本件仮差押の申請を却下したものと認められるから、これを不服とする本件抗告は理由がない。

よって、本件抗告を棄却することとし、抗告費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 室伏壮一郎 裁判官 小木曽競 深田源次)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例